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続編 第三章 嫉妬しちゃう心1

last update Last Updated: 2025-01-19 17:52:23

続編

第三章 嫉妬しちゃう心

暑い……。

かき氷食べたいな……。

仕事を終えて買い物をしながらそんなことを考えていた。

大くんは甘いモノをほとんど食べない。だから私も付き合って食べないようにしているけれど、たまに食べたくなってしまう。女性は甘いモノが大好きな人が多い気がする。

七月に入り、ますます気温が上昇しているせいか、湿気が多くて具合が悪くなる。

今日は冷麦でもしようかな。

そう思っている時、大くんからメールが届いた。

『友だちに会うことになった。今日は夕飯いらないよ。なるべく早く帰るね』

なんだ、一人で夕飯か。

寂しいな……と思いつつ、一人なら作る必要はないと思ってお弁当を購入した。

きっと、大くんと暮らしてなかったらだらしない食生活かもしれない。

お惣菜かファーストフードか、コンビニ弁当。

栄養バランスを考えないで食べていただろうなと想像し苦笑いをしながら自宅に戻った。

家に戻ると一週間分の疲れが出てしまったのか、お弁当をテーブルに置いてうとうとしてしまった。

「……う、……みう、美羽!」

呼びかけられて体が揺すられ、目を覚ます。大くんが心配そうな顔で覗きこんでいた。

「……あ、やだ。眠ってしまってた……」

壁の時計を見ると深夜一時だ。明日は休みだから夜更かししても平気だけど……大くんは疲れてないかな。

「お帰りなさい、大くん」

大くんは私をふわりと包み込むように抱きしめてくれた。

安心してまた眠気が襲ってきたのだけど、甘い匂いがして一気に意識がはっきりしてしまった。

……女の人の香りがする。
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